生活保護制度~第三回講義
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本日5時起床. 本日,午前病院勤務.午後から学芸大で講義です.昨日は,一日在宅で,資料整理や調べものをしていました.一日あっという間に終わってしまいました.5月も,もう後半戦ですね.時間が経つのがとても早いです.
さて,本日は,昨日に続き生活保護制度のお話をしたいと思います.昨日は,生活保護の原理を整理しました.生活保護法には,3つの原理が,2条,3条,4条で規定されています.
生活保護制度第一回講義:http://tsuyukis-support.sakura.ne.jp/?p=486
生活保護制度第二回講義:http://tsuyukis-support.sakura.ne.jp/?p=488
本日は,生活保護の原則について説明したいと思います.まず,昨日も整理しましたが,原理と原則について,辞書的な意味を整理しておきたいと思います.原理とは,事象やそれについての認識を成り立たせる,根本となるしくみであり,原則とは,基本的な規則や法則です.しばしばこれら二つは,区別せずに用いられるが,原理は主として存在や認識に,原則は主として人間の活動に関係するとされています.そして,生活保護法では,3つの原理と,4つの原則が,それぞれ生活保護法に規定されています.
4つの原則とは,①申請保護の原則(生活保護法第7条),②基準及び程度の原則(生活保護法第8条),③必要即応の原則(生活保護法第9条),④世帯単位の原則(生活保護法第10条)です.
①申請保護の原則(生活保護法第7条)は,生活保護を開始するためには,当事者(要保護者・生活困窮者)からの申請に基づくということを示したものです.もう少し詳しくお話をすると,当事者(要保護者 ・生活困窮者)やその扶養義務者,あるいは同一の親族による申請に基づき開始されます.申請権を本人のみに限定していないのは,身体的・精神的な病気や障害によって,現実的に申請できないことを配慮しているからです.日本の福祉制度は,この「申請」に基づく利用開始が殆どです.しかし,要保護者が急迫した状況にあるとき,保護の申請がなくても保護の実施機関の職権で必要な保護をおこなうこともできます.
生活保護は,国民の多くの人々が正しく理解できていない為,それに対する差別や「生活保護を受けるようになったらもうダメだ」という価値観があることも事実です.実際,面接などで生活保護の話などをすると,同様な声が聞かれる場合もあります.そういった意味では,我々ソーシャルワーカーや福祉援助者は,生活保護に関する正しい知識を習得していることや,利用者の包括的・総合的なアセスメントをおこなうことで,適切な情報提供と適切なタイミングで,生活保護制度を利用してもうらことができるのではないでしょうか.
②基準及び程度の原則(生活保護法第8条)は,厚生労働大臣が定める生活保護基準は,最低限度の生活(健康で文化的な最低限度の生活)を満たすものでなければならず,また保護(程度)についてはその基準に基づく不足分を補う程度のものであると示したものです.この基準は,要保護者の年齢や世帯構成,所在地域,そのほか保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低生活の需要を満たすものに過不足ないないものとされています.具体的には,8つの扶助と加算があります.8つの扶助については,次回の講義で取り上げたいと思います.
③必要即応の原則(生活保護法第9条)とは,生活保護法第2条に規定される「無差別平等の原理」の機械的及び画一的な運用を防止することを目的に,要保護者の年齢や健康状態などその個人又は世帯の実情や実際の必要性の相違を考慮し,有効且つ適切に保護を実施するという原則です.
④世帯単位の原則(生活保護法第10条)は,簡単に言うと,生活保護は,個人個人で申請,受給されるものではなく,世帯単位で保護されるものであるということを示しています.つまり,同一の住居に居住し,生計を一にしているものは同一世帯と認定し,その世帯をひとつの単位として保護の要否や程度を判断し,実施するという原則です.また,出稼ぎや下宿・寄宿などをしている場合も,同一の住居に居住していないものの,生計が同一であるため同一世帯と認定されています.
しかし,この原則を適用することで,かえってその世帯が生活困窮な状態や最低生活を維持できない場合や,被保護者の自立が害われる場合などは,同一世帯であっても世帯を別に取り扱う,「世帯分離」をします.しかし,現実的に,この世帯分離が成立するケースは,とても少ないです.実際のケースを考えてみても,この世帯分離に当たるケースは,10年余りソーシャルワーカーをやっていますが,数ケースのみで,その際もとても大変でした.
以上,本日は,生活保護4原則について整理いたしました.前回,今回と,二回に渡って生活保護の原理・原則について整理してきましたが,実際の運用は,この原理・原則の文面どおりにはいきません.それに,疑問や憤りを感じる人々や新人の援助者の方も多いです.生活保護の実際については,生活保護法関係法令及び通知等を分類整理した生活保護手帳〈2008年度版〉
を使って運用されているのが実際です.もし,自身の施設や病院で生活保護を受給する方がいる場合,またその可能性がある場合は,この生活保護手帳〈2008年度版〉
は,持っておいたほうがいいと思います.
次回第4回の講義は,生活保護の8つの扶助についてです.生活保護の種類や内容について細かく整理していきたいと思っています.これもたぶん,2~3回に分けてお送りしますと思います.
『プロケースワーカー100の心得』 柴田純一著 現場を知る柴田氏がケースワーカー業務の意味と心構え,実際の仕事や生活保護法の解釈と運用をめぐる問題,働きやすい職場環境などについて整理しています.福祉事務所新人職員に向けた解説書ともいえる本です.生活保護に興味がある方は絶対お薦め.
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