患者役割 「よくなったら,自分でやる」
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本日,5時起床. 湿度が高く,ジメジメとした朝です.
昨日は,一日病院勤務でした.一日中バタバタとしていました.本日も,一日病院勤務です.先週で,専門学校の講義はすべて終了しましたので,今晩・明日午前の講義はありません.
本日の話題は,看護・介護場面での患者さんとのすれ違いについてお話したいと思います.
例えば,当院の場合,「回復期リハビリテーション病棟」は,在宅退院(復帰)を目的としているため,患者さんは,『自分が出来ることは,自分でやる』,『看護師やケアワーカーは,本人の出来ない部分をサポートするような形で支援を行っていく』というルールがあります.これは,どなたが聴いても納得がいきますし,当然のことと思うでしょう.私もそう思います.
しかし,時折,このルール通りいかない場合があります.患者さんから,『水や食べ物を口まで運んでくれ』と訴えられることがあります.そのとき,ケアスタッフ(看護師及びケアワーカー)は,環境を整えることで,患者さん自身の持っている能力を活用してもらい,自活してもらうように促します.
これに対し,患者さんは,『(右麻痺の方)右手がまだ使えないので,自分でやることなんて出来ない』と申します.ケアスタッフは,『使える左手を工夫して自活するのも,今後の生活には重要です』と,促す.
これに対し,患者さんは,『右手で食事ができるように,今入院してリハビリをやっているんだろう』,『だから今は出来なくて当たり前だ』といいます.
このやり取り,どちらも正論なんです.では,なぜ話がかみ合わないか.それは,役割理論で説明する必要があります.役割理論は,社会学で開発された理論を社会福祉の援助に導入したものです.人は,社会生活での複数の役割を担う能力を持つが,時に人はそれぞれの役割を担っていくことが出来なくなると混乱状態に陥る.その人の担っている多くの役割が,相互に矛盾していたり,葛藤を起こしていたり,両立できないということなどからその混乱が生じているならば,それらの役割を遂行することがますます困難となる.そのような状況が重なることにより,混乱やストレスが炊くなり,深刻な問題へと発展する可能性があると,考えるものです【露木(2007)「回復期のソーシャルワーク援助」『医療と福祉』より】.
この理論をもとに,以上のやり取りを少し整理してみると,患者さんは,「生活者(出来る機能を最大限に活用して,自分らしく生活する)役割」ではなく,「患者(治療半ばで,出来ないことはやってもらう.よくなれば,自分で出来るのだから)役割」の状態です.
対して,ケアスタッフは,「看護・介護者(病気や怪我なのだから,出来ないことはこちらがサポートする)役割」ではなく,「生活支援(出来ることを尊重し,その能力を高める)役割」を取っているため,両者の役割間で葛藤が生じているのです.だから,ケアスタッフもしっくりきませんし,患者さん自身もしっくりきていません.これは,お互いの役割間で「ズレ」が生じているからです.
患者さんの現在のロール:患者役割>生活者役割
ケアスタッフの現在のロール:看護・介護者役割<生活支援役割
つまり,患者さんは,ケアスタッフに,看護・介護を要求し,それに対する過度の期待を持っているのに対し,ケアスタッフは,患者自身を受傷前の状態である「生活者」とみなしているため,お互いのサービスとニーズが合致していないため,お互いにとってストレス常態にあるのです.
どちらが正しいかは別な問題として,ストレスのない役割関係とは,
①患者さん:患者役割>生活者役割 ケアスタッフ:看護・介護者役割>生活支援役割
②患者さん:患者役割<生活者役割 ケアスタッフ:看護・介護者役割<生活支援役割
の状態です.①は,急性期の状態です.②は,在宅療養期の状態です.つまり,回復期の現在は,①から②への移行期なので,自身が,どちらの役割を遂行しているのかを「意識化」出来ない場合は,援助者も,患者さん本人も辛いでしょう.
では,なぜこのような現象が起きるのか.それは,患者さん自身が十分に自身のボディイメージがついていないためであり,障害を受け入れていく体制が出来ていないからです.勿論,この時期に,それを強いることは無理なことです.そのため,我々医療スタッフが,それを理解したうえで,時折,患者役割を担保・保護してあげることも重要です.一方で,徐々に生活者役割へとスライドできるような促しも重要となります.
私からのこの事例に関する助言としては,まずは,家族内で,「障害」を話題に話が出来ることが重要で,次に,医療スタッフと本人とが「障害」を話題に話をすることが出来ること・・と,拡大していくことが重要ではないかということです.もう少しじっくり時間をかけて関わっていく必要があります.
ここで重要なことは,焦って,権威的に振舞ったり,強制的に役割を強いるのではなく,信頼関係を構築していくことが重要となります.
と,書きたいことはたくさんあるのですが,本日はこの辺で・・・
大学院の研究時代に読んだ本です.障害を理解する為にとても重要な書籍となっています.お薦めです.
『社会受容~障害受容の本質』南雲直二著
『障害受容~意味論からの問い』南雲直二著
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