現在の医療・医療制度

15 8 月, 2008 (08:30) | コラム(ライフスタイル), コラム(介護・福祉・医療), 推薦図書

おはようございます.とても暑い朝です.東京の狭い空を見上げ・・・約60数年前の今日,戦争が終わったんだなぁ~と,しみじみと思いました.あの日の朝はどんな朝だったんでしょうか.今日のように,とても暑い朝だったのでしょうか.過去があり,今がある.そして,今があり,未来があることを強く考えさせられます.だからこそ,今を生きる人が,今を大切に生きないといけないのだと思います(一生懸命じゃなくて,大切にね).一年に一度でいいから,「平和」の大切さ・・・幸せさ・・・を痛感しなければならないですよね.「平和」であっての「権利」だし,「福祉」だと思います.

本日は,現在の医療・医療制度について少し考えてみたいと思います.  今の医療・・・ですが,エビデンス.つまり,根拠を要求してきます.「根拠に基づく医療」.これをEBM(エビデンス・ベイスド・メディスン)といいますが・・・すべて,この根拠に基づき,治療方針や治療計画がたてられています.もちろん,保険(医療保険)の適応期間もこれに準じています.例えば,脳卒中(脳血管疾患)後遺症のリハビリテーション期間は,150日と決められています(高次脳機能障害を有する場合は180日).病院では,この期間内で完結する治療(援助)方針・治療(援助)計画がたてています.

これは,これでいいと思いますが,私が本日取り上げたいのは,この期間の計画を立てる際,患者を普遍化し,画一的な計画・支援になってしまっているのではないか?ということです.つまり,個人差を無視していないか,個別化をして,一人ひとりにあった援助計画がたてられているのかということです.

こんな例があります.60代男性:6月初旬に脳出血発症.急性期病院で血腫除去術・胃ロウ造設(食事が口から食べられないので,胃に直接栄養を入れられるようにする手術)後,8月始めに回復期リハビリ病院へ転院.入院直後,医師からのムンテラ(病状説明)で,「麻痺は重く,今後リハビリをしても,回復は見込めない.リハビリは本人のやる気が必要であるが,本人はリハビリの拒否が見られる.この状態でリハビリを続けていくと本人にもストレスがかかってくる.さて,この状況で,今後どうするかを考えてください.答えは,2週間以内に出してください.方向としては,①在宅退院,②施設入居.この二つのどちらかを選択してください.もし,ご家族内で話しがまとまらなければ,私(病院)の方で方向性を示します」と,いった話を受けたという家族がいます.

まず,この先生(医師)がいっていること,これは正しいことで,正論です.医療システムや病院内での医師の立場から当然のことで,またたくさんの症例を見てきたからこそ,麻痺などの後遺障害の見立てやリハビリをすることのストレスなど冷静に判断できています.ただ,言い方と,タイミングの問題はあるかと思います.発症からまだ2ヶ月しか(「まだ」「しか」ですよ)たっていない.入院してからまだ数日しかたっていない・・・今する話でしょうか?いや,する話だとしても,家族との信頼関係ができていない状況で,このような話をすれば当然家族は不信感を抱くでしょう.では,このとき,家族の答えること・・・①在宅退院ですよね.思いとしては・・・ でも状況がわかる賢い家族であればあるほど,①在宅は困難で,②施設といわなければいけないのか・・・と悩みます.そして,②施設と言ったら,リハビリを中断されてしまうのではないか・・・といった恐怖を抱えているのです.確かに,この4月から回復期リハビリ病棟は,在宅復帰率など縛りが厳しくなってきました.しかし,ここまでしっかり理解できているご家族に対して,現状況で二者択一させることはあまり意味がありません.この御家族は,本人の障害を一所懸命受容しようとしながら,たくさんの情報や資料を集めて,今後のことをしっかり見据えて動いています.ただ,私がご家族に言った言葉は,『今を大切にしてほしい』ということです.勿論不安で,たくさんの資料を取り寄せることも大切だが,今は,本人の回復のために悩んだり,嘆いたり,涙したり,叫んだり・・・していいんだということ.この時期に,この時期にしかできないことをしっかりしていないと,後々後悔します.だから今は,本人にたくさんこえかけをしてほしいと・・伝えました.

このように様々な相談を受けていますが,私が大切にしたいのは,人や家族を総合的に把握し,その人や家族に合わせた歩幅で対話をし,現状でできる最善を検討することです.もちろん,今後の期間的なものや,身体機能面の見立てなどを加味したものですが,今しかできないことを,今しっかりやることは,とても大切なことです.その「今」をともに考えること,悩むこと・・・そんなことを大切にしたいと思っています.

*今回紹介した事例は,当院入院中の患者様ではありません.

(追記) 昨日,本をご紹介しました小説で読む生老病死ですが,その本の中で取り上げられている,遠藤周作氏の『海と毒薬』,深沢七郎氏の『楢山節考』,山崎豊子氏の『白い巨塔』,山崎章郎氏の『病院で死ぬということ』については,今後ご紹介していきたいと考えています.